代理店の提案が妥当か。3社で迷ったときの判断手順
机の上に、代理店3社の提案書が並んでいる。「どれも悪くはない」。なのに、妥当かどうかは判断できない。
残してよいかは、提案書の中身だけでは分かりません。先に決めるのは、その会社に全部任せるのか、一部分だけ頼むのかです。それが決まると、同じ提案でも採るか外すかが分かれます。
この記事では、提案書のどこを見るか、商談で何を聞くか、契約前に何を決めるかを書きます。読み終えると、価格と知名度以外の基準で、自社のために動く代理店を選べます。
この記事でわかること
- 提案書で読むのは2ページだけ。自社名を同業他社に差し替えて、文章が成立するかを確かめる
- 妥当性のある提案は、自社の得意分野より先にクライアントの事業課題に触れている
- 決められないときに足りないのは代理店の情報ではなく、自社側で決まっていない3つの条件
目次
妥当性を判断せずに代理店を選ぶと、半年後に何が起きるか
判断基準を持たないまま代理店を選ぶと、価格と知名度だけで決めることになり、その代償は契約が始まってから出てきます。
基準がないと、安さで決めて時間で損する
提案書を3社分並べても決め手が浮かばないとき、最後に残る判断基準は「金額」と「社名」です。
どの提案も方向性として間違っていない場合、中身で差はつきません。目に見える違いは、見積もりの金額と、知名度だけになります。
なかには3社がそろって「まずは認知施策から着手すべきです」と提案してくる場合もあります。そうなると比べられるのは、月額40万円か30万円かの金額だけになります。
安いほうを選んで悪いわけではありません。ただ、単価の差は工数の差なので、安いからといって即決しないよう注意が必要です。
単価が安い代理店の特徴
- 月次の打ち合わせがない
- レポートは管理画面の自動出力のまま
- 担当者は10社を掛け持ちしている
手厚いサポートを期待しているなら、この差は運用が始まってから出てきます。月に一度も話せないまま、自動出力のレポートだけが届く状態です。
価格で決めた結果は、値引き分ではなく、失った時間で返ってきます。
合わないと気づくのは、3〜6か月後
組んだ相手が合っていないと分かるのは、たいてい3か月から半年が過ぎたころです。
広告は最初の1〜2か月で効果が出やすいです。新しいクリエイティブを入れれば反応は変わるので、その間は「うまくいっている」ように見えます。
問題が出てくるのはその後です。CPAは下がったという報告が続くのに、売り上げが上がらない。代理店の変更を検討するため契約書を見たところ、解約予告は1か月前、そして最低契約期間が6か月と書いてあった場合に困りますよね。
気づいてから実際に会社を変えるまで最短で7か月。月30万円の広告費なら、その間に210万円が無駄な運用になります。
代理店の提案書から妥当性を読み解く方法
提案書を全部読まなくても、妥当性は2ページで判断できます。どこを見て、何が書かれていれば自社に向けた提案だと言えるのかを、順に見ていきます。
自社名を、同業他社に差し替えて読む
読むのは「課題整理」のページと、「だからこの施策です」と書いてある施策選定のページ。この2ページだけです。
自社名が出てくる箇所に、同業他社の名前を当てはめて読んでみてください。それで文章が成立してしまう提案は、あなたの会社に向けて書かれたものではありません。
よくある提案
- 御社は認知が足りていません
- 競合のA社はすでに動画広告を強化しています
- ですからまずは認知施策から着手すべきです
この3行は、同業他社のどこに出してもそのまま提案が通ります。通ってしまう文章は、提案ではなく業界向けの一般論です。
ここで手を抜いていると決めつけないでください。代理店としては誰に提案しても、外さない書き方が身に付いているだけです。
では、どうすれば妥当性を問う判断材料が見つかるのか。
置き換えて壊れる文が、1つでもあるか
置き換えたとたんに意味が壊れる文があれば、そこには自社のために調査をした人の痕跡が残ります。
御社は3年前に販路を代理店経由から直販に切り替えていて、そのとき離れた既存顧客がまだ戻りきっていない
この一文は、同業他社に貼り替えると嘘になります。私がこの読み方に気づいたのも、提案書を5冊まとめて受け取った日に、3冊の課題整理が言い回しまでほとんど同じだったからです。
嘘になる文が1つでもあれば、その提案書は最後まで読む価値があります。1つも無ければ、読む時間を商談の質問づくりに回しましょう。
妥当性のある提案順番とは?
得意分野より先に、自社の事業が書いてあることです。
事業の話から始まる提案は、何が違うのか
発注する側で50社以上の提案を受けてきましたが、提案書の書き出しには、その会社の姿勢がそのまま出ます。
事業・顧客・競合の分析から始まる提案は、依頼内容を自社の事業のなかに位置づけようとしています。SWOT分析やSTPまで踏み込んだうえで、自分たちの得意な広告運用につなげてくる。ここまで来ると「この会社、うちのことを分かっているな」と感じます。
| 書き出し | 分かること |
|---|---|
| 事業・顧客・競合の分析から | 事業の中に位置づけている |
| 「弊社の強みは動画広告です」から | 自社のメニューに寄せている |
逆に、得意なことの説明から始まり、最後までそれしか書いていない提案は、良し悪し以前に比べる材料になりません。
得意分野しか提案しないのは、手抜きではない
その会社が本当に得意なことを提案しているだけです。配信のチューニングが日本でも指折りにうまい会社が、配信の話しかしてこないのは当たり前です。
手抜きだと切り捨ててしまうと、自社に合う会社まで候補から外すことになります。見るべきなのは提案の姿勢ではなく、その得意分野が自社の依頼と噛み合うかどうかです。
そして噛み合うかどうかは、提案書の中だけでは読み解けません。
依頼する範囲で、妥当性の基準は変わる
同じ提案書でも、任せる範囲が変わると評価は逆になります。妥当性を決めているのは提案書の中身ではなく、こちらが何を任せたいかです。
全部任せるときと、一部だけ任せるとき
| 任せる範囲 | 求めるもの | 外れる提案 |
|---|---|---|
| 全部(専属の代理店) | 事業の分析から得意分野へつながる | 得意な1メニューで全体を語る |
| 一部(動画1本・配信だけ) | 工程の精度と速さ、単価と納期 | 事業全体の話が長く、工程が薄い |
見てほしいのは右の列です。全部を任せるときには評価すべき「事業の分析から始まる提案」が、一部だけ任せるときには減点になります。
動画を1本だけ発注したいのに、SWOT分析から始まる企画書が出てくれば、工数が乗って見積もりも上がるからです。
コンペで大手を断ったときの話
専属の代理店を決めるコンペで、誰でも名前を知っている大手のネット専業代理店を断ったことがあります。
こちらが任せたかったのは、商品を知ってもらうところから興味を持ってもらうまでの、一連のプロモーションでした。届いた提案は、ネット広告の配信が厚く、認知と興味喚起のところがほとんどありません。配信は、この案件で一番大きな予算が動く部分です。
質疑で聞きました。「認知のところは、どう考えていますか」。
そこはご要望があれば、パートナーさんと組んで対応します
ご要望があれば、です。オリエンで一番に説明していた部分だったので、断った理由は提案の出来ではなく、任せたい範囲とのズレでした。
その半年後、別の案件で動画広告を1本だけ回すことになったとき、真っ先に思い出したのがこの会社でした。一度は外した提案書が、別の案件では最有力になっています。
提案書を読む前に、任せる範囲を決める
提案書を開く前に決めるのは、代理店のことではなく、自社が何を任せるかです。
専属の代理店として長く組むのか。社内でできない工程だけを任せるのか。総合的なパートナーとしては選ばなかった会社に、特定の工程だけを任せたことが何度もあります。
任せる範囲が決まっていれば、提案書のどのページを重く見るかも決まります。
POINT
- 提案書を外す前に、「任せる範囲が違うだけではないか」を確かめられる
- 全部任せるときと一部だけ任せるときで、評価する点を逆にできる
- 代理店を比べる前に、自社で決めることを先に決められる
提案の妥当性を確かめる4つの質問
提案書だけでは読み解けない部分は商談で確かめますが、聞く相手は提案を作った人と、契約後に実際に運用する人の2人に分かれます。
提案を作った人に聞く2つ
「検討して、外した案はありますか」
いい提案には必ず捨てた案があり、捨てた理由を言える人は、選んだ理由も言えます。
御社の商材は単価が高くて検討期間が長いので、今すぐ買わせにいく打ち方は合わないと判断して外しました
こう答えられたら、その人は考えています。「これがベストだと思いまして」で終わるときは、選択肢が最初から1つしかなかった可能性があります。
「なぜこの順番なんですか」
施策が3つ並んでいるとき、なぜそれを1番目に置いたのか。ここに、その会社が何を一番効くと思っているかが出ます。
順番の理由が「予算配分の都合です」だったときは、任せたい範囲とズレていないかを確かめてください。
実際に運用する人に聞く2つ
「いまは何社くらい担当されていますか」
戦略の相談からクリエイティブの改善まで一緒に走るスタイルなら、1人が質を保って見られるのは4〜5社が目安です。10社を超えたあたりから、自社に使ってもらえる時間は物理的に短くなります。
能力の話ではなく、時間の割り算の話です。
「担当が替わるとき、何が引き継がれますか」
担当者はいつか替わります。そのとき、過去に何を試して何が駄目だったかが、書いた形で残っているのか。それとも前任者の頭の中にしかないのか。
「引き継ぎ資料を作ります」と言われたら、「どんな項目が書いてあるものですか」まで聞いてみてください。
減点しなくていい答えが1つあり、「担当は契約後に決まります」がそれにあたります。これは体制の都合であって隠しごとではないので、「決まったら顔合わせの時間をください」とお願いしておけば足ります。
むしろ気にするなら問い合わせへの返信の速さで、3日返事が来ない相手は契約後も同じ速さになると考えてください。
2つとも、契約が始まったあとに自社がどう扱われるかを、先に知るための質問です。
代理店との契約前に決める3つの条件
契約前に交渉すべき条件は、最低契約期間と、見るべき指標、そして広告アカウントの名義です。
運用が始まったあとで会話を始めると、認識の齟齬が起きるだけでなく、契約を止めるケースにまで発展することがあります。
最低契約期間は「離れられるまで」で聞く
契約期間は3〜6か月が多いです。聞くべきは期間そのものより、合わないと気づいてから実際に離れられるまで何か月かかるか。
6か月契約で解約予告が1か月前なら、最悪7か月は一緒にいることになります。
初めて組む相手なら、「まず3か月お試しでお願いすることはできますか」と聞いてみてください。断られたとしても、その断り方に考え方が出ます。
最低契約期間は、契約書に書かれた月数ではなく、合わないと気づいてから離れられるまでの月数で見ておくと安全です。
見るべき指標を、先に1つ決める
ここが一番もめます。もめていることに双方が気づかないまま、半年が過ぎることもあります。
代理店が「CPAが30%下がりました」と報告してくる。こちらは「でも売上は変わっていない」と思っている。どちらも嘘ではなく、安く獲れるお客さんばかりを集めれば、CPAは下がっても売上は動かないからです。
契約の前に「うちが見たいのはROASです」と言ってしまうのが早いです。ROASは使った広告費が売り上げとして回収できているかを見る指標なので、ここを先に伝えておけば、CPAだけを下げた報告で半年が過ぎることはありません。
広告アカウントは、誰の名義か
広告の管理画面を代理店の名義で作るのか、自社の名義で作って代理店に権限を渡すのか。ここは必ず確認してください。
代理店名義のまま契約が終わると、何を試して何が駄目だったかの記録が丸ごと消えます。次の代理店はまたゼロから同じテストをやり直すので、そのお金を払うのはこちらです。
名義をどちらにするかは、契約書を交わす前に決めておいてください。
代理店を決められないときは、自社の条件が空欄になっている
3社に会って、質問もして、契約条件も聞いた。それでも決まらないなら、足りないのは代理店の情報ではありません。自社側で決まっていない条件があります。
もう1社呼んでも、決まらない
4社目を呼んでも結果は同じで、原因は代理店側ではなく、自社側で決まっていない条件が3つあることです。
提案を受ける前に決めておく3つ
- 何を増やしたいか
- いま困っているのはどこか
- どこまで外に出すか
この3つが空欄のまま提案を依頼すると、返ってくるのは「一般的に効果的とされる施策」になります。こちらが何を増やしたいのかを伝えていないので、相手は一般論で答えるしかありません。
そして一般論どうしは比べられないので、決められないのは、あなたの判断力の問題ではなく、比べられないものを比べさせられているからです。
埋めた3つの実物
3つの条件は、次のように埋めます。
| 決める条件 | 埋めた内容 |
|---|---|
| 何を増やしたいか | 新規の問い合わせを月40件から70件に。既存顧客の売上は維持でいい |
| いま困っているのはどこか | 資料請求から商談に進むのが月8件で止まっている。原因が営業か、集客の質か不明 |
| どこまで外に出すか | 広告配信とLP改修は外部へ。商談資料は自社。予算は月150万円、制作費は30万円まで |
格好いい文章である必要はなく、大事なのは、この3つが同業の他社では成立しない中身になっていることです。提案書に対して自社名を差し替えたのと同じことを、今度は自社に対してやります。
オリエンで渡すと、提案書の中身が変わる
この3つをそのままオリエンで渡すと、届く提案書の中身が変わります。
「商談に進むのが月8件で止まっている」と書いてあれば、資料請求のあとの話に触れないまま提案を出すことはできません。触れてこなかった1社は、その時点で候補から外れます。
3社とも決め手に欠けたまま選ぶより、この3つを書いてからもう一度会うほうが早く、書くのに30分もかかりません。
POINT
- 決められない理由を「判断力不足」ではなく「条件の空欄」として扱える
- 3つの条件を自分の言葉で埋めて、オリエンで渡せる
- 提案書のほうを変えさせて、条件で候補を絞り込める
3つのうち2つ目は、社内で見ていると答えが割れやすい条件です。営業が追えていないのか、集まっている人の質なのか、どちらとも取れる数字が出るからです。
ここは人が数字を見て切り分ける領域なので、一度外から見てほしいときは無料のチェックシートを使ってください。3つの条件を埋めるための質問だけが並んでいます。
今日から使える3つ
手をつける順番は、次のとおりです。
- 自社の3つの条件を埋める(何を増やしたいか/いま困っているのはどこか/どこまで外に出すか)
- 全部任せるのか、一部だけ任せるのかを決める
- 提案書の自社名を同業他社に差し替えて、2ページだけ読む
提案書が目の前にあると、つい1冊目から読み始めてしまいますよね。ただ、任せる範囲が決まっていない状態で読むと、どのページを重く見ればいいかが決まりません。
大手を断ったコンペでも、断った理由は提案の粗ではなく、任せたい範囲とのズレでした。その半年後、同じ提案書が別の案件で最有力になっています。
代理店の提案が妥当かどうかは、提案書の中だけでは読み解けません。
よくある質問
提案を受ける場面で実際に多い質問を、4つまとめました。
Q1. 相見積もりは、何社に声をかけるといいですか
2〜3社をおすすめします。
たくさん見たほうが得だと考えて5社も6社も呼ぶと、オリエンの説明、提案を受ける時間、社内での比較と、こちら側の作業が膨らみます。その結果、選ぶ作業そのものが止まってしまうので、声をかける前に候補を絞っておくほうが最後まで走れます。
Q2. 担当が経験の浅い人だと言われました。減点すべきですか
減点しなくていいですし、むしろ言わない会社より誠実です。
確認するのは経験年数ではなく、その人を誰が見ているかになります。「困ったときに相談できる先輩は、同じチームにいますか」「レポートは誰かが目を通してから出ますか」と聞いて、具体的な答えが返ってくるなら、体制としては機能します。
Q3. 自社の数字は、どこまで見せるべきですか
提案を受ける段階なら、3つの条件に入る範囲で足ります。
売上の実額や利益率まで出さなくても、「問い合わせが月40件で、商談が8件」という粒度が分かれば、提案は具体的になります。契約後は、先に決めたROASを共有しないと相手も打ち手を選べないので、そこからは数字を開いていくことになります。
Q4. 断るとき、理由は伝えたほうがいいですか
伝えたほうがいいですが、提案の欠点を並べる必要はありません。
「今回任せたい範囲とズレていました」で十分ですし、事実としてもそのとおりであることが多いです。そのうえで良かったところを1つだけ具体的に挙げて、次回また声をかける可能性があると伝えておくと、こちらの候補リストが減らずに済みます。
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